西尾簡易裁判所 事件番号不詳 判決
右被告人両名に対する労働基準法違反被告事件につき、当裁判所は審理を遂げ、次のように判決する。
主文
被告人横内正生を罰金五百円に処する。
被告人において右の罰金を完納することができないときは、その分について、金五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
被告人横内正生に対する本件起訴事実中、同被告人が愛知興業株式会社西尾工場において昭和二十三年四月十五日より同年十一月十五日までの間労働者鈴木鶴美に対し、別紙第二明細表に記載の通り、一日につき法定の労働時間より一時間乃至三時間を超えて労働をなさしめたとの点、同被告人が同工場において、昭和二十三年七月二十九日より同年十一月十二日までの間労働者天野ハルエに対し別紙第二明細表に記載の通り、一日につき法定の労働時間より一時間を超えて労働をなさしめたとの点、同被告人が同工場において昭和二十三年三月二十九日、三十日の両日労働者稲垣増次郞に対し、法定の労働時間より各一時間を超えて労働をなさしめたとの点、同被告人が同工場において昭和二十三年四月六日より同年十一月十五日までの間、労働者藤川いちに対し別紙第一明細表記載の労働時間以外に別紙第二明細表に記載の通り法定の労働時間より一日につき三十分乃至二時間三十分を超えて労働をなさしめたとの点、同被告人が同工場において昭和二十三年八月二十九日より同年九月二十八日までの間労働者石川ヒサノに対し休日を除き法定の労働時間より各一時間を超えて労働をなさしめたとの点、同被告人が同工場において昭和二十三年十月二十九日より同年十一月十五日までの間労働者古井やすに対し休日を除き法定の労働時間より三十分を超えて労働をなさしめたとの点は無罪。
被告人羽田喜六は無罪。
理由
被告人横内正生は、ガラ紡糸の製造を業とする愛知興業株式会社に雇われ、愛知県幡豆郡西尾町大字住吉六丁目四番地所在の同会社西尾工場の工場長として、その経営並に労務管理一切を担任していたものであるが、法定の除外事由なくして、その業務に関し、同工場において昭和二十三年四月一日より同年十一月十五日までの間、労働者稲垣増次郞、藤川いち、小久保よしの、石川ヒサノ、古井やすの五名に対し、別紙第一明細表に記載の通り、休日及欠勤日を除き、一日につき法定の労働時間八時間より三十分乃至三時間を超えて労働をなさしめたものである。
右の事実は、被告人横内正生の当公廷における判示事実と同趣旨の供述、労働基準監督官榊原一夫作成の横内正生、稲垣増次郞、藤川いち、石川ヒサノ、古井やすの各聴取書、検察事務官作成の横内正生、稲垣増次郞、藤川いち、石川ヒサノ、古井やす、小久保よしのの各供述調書を綜合してこれを認める。
法律を適用すると、被告人横内正生の判示所為は、労働基準法第三十二条第一項、同法第百十九条第一号、刑法第四十五条前段、第四十八条第二項に該当する処犯罪の情状憫諒すべきものがあるから刑法第六十六条、第六十八条第四号により酌量減軽をした刑の範囲内で同被告人を罰金五百円に処し、同法第十八条により右罰金を完納することができないときは、その分につき金五十円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置すべきものとする。
本件起訴事実中、主文第三項掲記の事実については、これを認めるに足る証明が十分でないから無罪を言渡すべきものとする。
次に被告人羽田喜六に対する本件起訴事実は、被告人はガラ紡糸の製造を業とする愛知興業株式会社の取締役社長として同会社の事業経営の全般を掌理していたものであるが、被告人横内正生は同会社に雇われ愛知県幡豆郡西尾町大字住吉六丁目四番地所在の同会社西尾工場の工場長として、その経営並に労務管理一切を担任してい間に法定の除外事由なくしてその業務に関し、同工場において昭和二十三年三月二十九日より同年十一月十五日までの間に、労働者稲垣増次郞、藤川いち、小久保よしの、鈴木鶴美、天野ハルエ、石川ヒサノ、古井やすの七名に対し起訴状に添付の個人別超過労働時間数一覧表に記載の通り、法定の労働時間を超えること一日について一時間乃至三時間の時間外労働をなさしめたものであつて、被告人羽田喜六は事業主としてその違反の防止につき必要な措置をしなかつたものである、というのであるが、本件の場合における事業主は愛知興業株式会社であつて、その代表者である被告人羽田喜六ではない。従つて労働基準法第百二十一条第一項に定める処罰の対象となるものは、法人である愛知興業株式会社であつて、取締役社長の地位にあつた被告人羽田喜六ではない。結局同被告人に対する本件起訴事実は罪とならないから無罪を言渡すべきものとする。
よつて主文のように判決する。
(裁判官 西川銕吉)